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SPICE STORYスパイス物語

日本における香辛料の発展と歴史

2016/08/18 スパイスと歴史

日本独自の「薬味」の概念

世界中の料理を楽しむことができる現代の日本。今でこそエスニックな香りのスパイスも身近な存在となっていますが、日本の食文化における香辛料の歴史はヨーロッパをはじめとする諸外国とは全く異なる形を辿ってきました。

日本における香辛料の歴史としては、712年に編纂された日本最古の歴史書「古事記」の中に、「はじかみ」という名で生姜や山椒などの香辛料類に関する記述が見られ、3世紀末に書かれた中国の歴史書「魏志倭人伝」にも、当時の日本に山椒が自生していたという記述があるといいます。

中世に入ると「薬味」の概念が発展し始め、江戸時代にその利用が発達したと言われています。主に大根・葱・紫蘇・芥子・生姜・山葵といった香辛料が好まれ、その他山椒や柚子など、新鮮な素材の持ち味を活かしながら料理に香りや辛味をつける、という使い方がされていたようです。

米中心の食文化が与えた影響

一方、コショウなどの熱帯地方原産のスパイスも、聖武天皇の時代(724〜749年)には既に日本に上陸していたそうで、その後も中国との交易や中世ヨーロッパ人の来航などにより、クローブやシナモン、唐辛子などのスパイスが次々と渡来してきたといいます。では、なぜヨーロッパ同様のスパイス文化が発展しなかったのか?これには米を主食とする日本の食文化と大きな関わりがあるようです。

米を中心とした食文化の形成が日本で始まったのは弥生時代。高い栄養価と味の良さに加え、生産効率が高く、保存にも適していたことから、米が食生活に取り入れられるようになったといいます。天武天皇の時代の675年には、「動物の肉を食べると稲作が失敗する」「稲の豊作のためには肉を断つ」という思想に基づく米作りのための方策として「肉食禁止令」が出され、この肉食禁忌の思想は水田の開発と生産力の増強が進んだ中世を経て、江戸時代の幕末まで続きます。

肉の代わりとなるタンパク質摂取の観点から魚が重視されるようになり、中世の末期には米・魚・野菜を中心とした日本的食生活が一般化したと言われています。 ヨーロッパで発展した肉食文化においては、保存や臭み取りのためにコショウやクローブといったスパイスが欠かせないものでしたが、日本の食生活にはその必要性がなく、麹による発酵食品・調味料を積極的に利用したこともあり、日本での香辛料の利用は素材の味を引き立てる薬味という形で発展していったのです。

明治維新、戦後を経て、現在の食生活に

こうして、米と魚を中心に日本独自の食文化が形成されてきましたが、幕末の開国と明治維新を機に西洋料理が流入し、肉食が再開されるようになります。それまでの食生活が一変することはなかったものの、徐々に普及が進んでいきます。

大正時代に入ると、コロッケ、とんかつ、カレーといった洋食が一般市民の間に普及し始めます。特にカレーの人気は高く、カレーを提供するレストランも出現し、ミックススパイスの概念が生まれたのもカレー粉が始まりと言われています。

昭和に入り第二次世界大戦が始まると食料事情が深刻化、終戦後アメリカの経済援助のもと小麦の輸入が始まり、これが後のパン食の普及につながったとも。そして、経済が回復し始めた1960年頃から高度成長期に突入し、都市ガスなどのインフラ、冷蔵庫などの家電の普及、スーパーマーケットの登場など、食料を取り巻く環境が大きな変貌を遂げ、食生活の洋風化が一気に加速しました。

そして、現在の日本。日本独自の和食の伝統もしっかり守りつつ、西洋料理をはじめ、中華料理、東南アジアやインド、アフリカなどのエスニック料理に至るまで世界中の食を楽しむことができるようになり、あらゆるスパイスが身近なものになりました。