2017/05/18 スパイスと逸話
基本的にほとんどのスパイスは、英語と和名で呼ばれることが多いのですが、世界中の料理を楽しめる現代の日本では、英語や和名以外にも様々な言語でスパイス・ハーブの名前を耳にするようになりました。
例えば、近年のエスニックブームで一気にメジャーな存在となったタイ語の「パクチー(phak-chii)」。ブームになる以前は主に「香菜(シャンツァイ、こうさい)」という名称の方が使われていましたが、 今ではすっかりパクチーという名前が浸透しています。
これには、中国から「香菜」として日本に渡来した当時、その独特な香りと風味でなかなか浸透しなかったという背景があります。それが近年、タイ料理やベトナム料理などのアジア系エスニック料理の人気に火がつき、あの独特な風味もクセになる味として受け入れられるようになり、「パクチー」の名称が市民権を得たというわけです。
一方、英語の「コリアンダー(coriander)」は時代を問わず使われてきた名称です。こちらは主に果実(種子)や葉を乾燥させたものをスパイスとして使う時に呼ばれ、パクチーや香菜と呼ぶときはフレッシュタイプの葉を意味します。その他、スペイン語の「シラントロ(cilantro)」、ヒンディー語の「ダニヤー」など、様々な呼び名が存在します。
ヨーロッパで古くから親しまれてきた「フェンネル(fennel)」も様々な呼び名を持つスパイス・ハーブです。主に葉の部分をハーブとして使う時に「フェンネル」、種子の部分をスパイスとして使う時には「フェンネル・シード」と呼ばれます。また、肥大した茎の部分の鱗茎(りんけい) はイタリア語で「フィノッキオ(finocchio)」と呼ばれ、このように部位によって呼び名も様々です。
その他、フランス語の「フヌイユ(fenouil)」も耳にすることがあると思いますが、こちらは葉や種子、鱗茎の部分を総称して呼ばれる名称、和名の「茴香(ういきょう)」「小茴香(しょうういきょう)」は、平安時代に中国経由で渡来したことから、中国語の「小茴(シャオ・フイ)」「茴香(フイ・シャン)」を日本語読みにしたものとされています。
ちなみに、似ているけれど実は違う、という混同しやすいスパイス・ハーブもあります。例えば、「月桂樹」は「ローレル(laurel)」「ローリエ(laurier)」「ベイリーフ(bay leaf)」など、様々な呼び方がされますが、前者2種は月桂樹の英語、フランス語の名称、ベイリーフは別品種とされています。月桂樹は葉脈が枝分かれになっているのに対し、ベイリーフは葉脈が縦に入っており、こちらはインド料理によく使われます。ベイリーフを月桂樹(ローレル、ローリエ)と同じだと思って代用するとミスマッチな風味になってしまうので注意が必要です。
また、「シナモン」と「ニッキ」も似ているようで混同しやすいスパイスです。アップルパイなどの洋菓子、料理のスパイスとして使われるシナモンは、「肉桂(ニッケイ)」「桂皮(ケイヒ)」とも呼ばれ、スリランカのセイロン島を原産とする品種。一方、ニッキは「シナニッケイ」が伝来して日本で栽培されるようになった「日本肉桂」の根っこのことをいい、八つ橋やニッキ飴に使われます。両品種とも同じクスノキ科の常緑樹でありながら決定的に違うのは、シナモンには「オイゲノール」が含まれているということ。また、シナモンには辛味がないのに対し、ニッキには若干の辛味がある、という味の違いもあります。
以上、様々な名前を持つスパイス・ハーブの一部をご紹介しましたが、他にもまだまだ沢山ありますので、いろいろ調べてみると面白いと思います。
スパイスやハーブはその種類の多さに加え、ものによってはいくつもの呼び名があるので、どれがどれだかわからない、ということもあるのではないでしょうか。そこで今回は、スパイス・ハーブの呼び名にまつわるお話をしたいと思います。