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イギリスの紅茶文化を代表する「アフタヌーンティー」

2019/07/18 スパイスとお茶

私たち日本人にとってはもちろん、世界中で親しまれているお茶ですが、紅茶と言えばイギリス、と思い浮かべる方も多いはず。実際、世界の紅茶文化を牽引しているイギリスではティータイムは生活の一部になっています。朝の目覚めに飲む「アーリーモーニングティー」に始まり、夜寝る前に飲む「ナイトティー」に至るまで、ティータイムはいくつも存在しますが、今回は、その代表格とも言える「アフタヌーンティー(Afternoon tea)」についてお話したいと思います。

アフタヌーンティーの発祥は空腹を紛らわすため?

そもそも、イギリスにお茶が初めて入ってきたのは1650年代と歴史は浅く、1662年にイギリス国王チャールズ2世のもとに嫁いだポルトガル王女キャサリンが当時貴重な高級品であった砂糖とお茶を大量に持参したことから、王室における喫茶の習慣が始まったと言われています。18世紀に入ると東インド会社が本格的にお茶の流通を始め、王室や貴族の間でのみ行われていた喫茶の習慣は産業革命をきっかけに中産階級の生活にも定着し、イギリスにおける紅茶文化が一気に花開くことになります。

アフタヌーンティーの習慣が始まったのは、さらに遅れて19世紀のこと。1840年頃、第7代ベッドフォード公爵フランシス・ラッセルの夫人であるアンナ・マリア・ラッセルが始めたのが発祥とされています。アフタヌーンティーが上流階級の社交文化として広まったのは事実ですが、元々のきっかけは食習慣事情によるものだったと言われています。当時のイギリスでは、朝食は朝の9時頃、夕食は観劇やバレエ・オペラ観賞、夜の社交等の後になるため夜の21時以降と遅く、昼食はほぼなしという状況だったとのこと。そして、この時代の貴族社会は大変ルールが厳しく、たとえ公爵夫人であっても昼食という習慣を勝手に始めることは難しかったようで、アンナ・マリアは裕福であったにも関わらず日中の空腹に悩まされていたといいます。しかし、公爵夫人という立場上、使用人が働くキッチンを出入りして自由に何か食べるということもできず、どうにか空腹を紛らわそうと、空腹時に飲むことは避けるとされていたお茶を頼むことでバター付きのパンや焼菓子を一緒に出してもらうことを思いついたのです。

公爵夫人でありセンスも良いアンナ・マリアは周囲の女性の間でも影響力のある存在だったため、彼女が個人的に始めたこの習慣は徐々に広まっていき、上流階級の間でお茶と軽食を用意しておしゃべりを楽しむ「アフタヌーンティー」という習慣へと発展していきました。アンナ・マリアはヴィクトリア女王に慕われる存在だったこともあり、この習慣は王室でも受け入れられたようです。

アフタヌーンティーとハイティーは似て非なるもの?

このような背景で始まったアフタヌーンティーも、次第に上流階級の重要な社交の場としての性質が強くなり、マナー等、正式な形が確立していきます。アフタヌーンティーは、別名で「ローティー(Low tea)」と呼ばれ、基本的には客間や居間といった低いテーブル(ローテーブル Low table)のある場所で、サンドウィッチといった軽食やお菓子と共に紅茶を飲みながらおしゃべりを楽しみます。あくまでも社交の場であるため、礼儀作法、調度品や食器、花といった室内の装飾、会話の内容に至るまで、幅広い知識や教養、センスが要求されたようです。

ちなみに、現在はほぼ同様の意味で使われる「ハイティー(High tea)」ですが、古くは似て非なる習慣だったのだとか。ハイティーはアフタヌーンティーよりも少し遅い夕方17時から18時頃、食事用の高いテーブル(ハイテーブル High table)でサンドウィッチといった軽食に加え、肉料理や魚料理と共に紅茶を飲む習慣で、「ミートティー(Meat tea)」とも呼ばれるなど、食事としての要素が強いものだったとされています。加えて、この習慣は労働者階級や農民の生活環境から始まったものと言われており、当時の上流階級の人々は自分たちのお茶の時間を絶対にハイティーとは呼ばなかったそうです。アフタヌーンティーとハイティーが同様の意味で使われることが多くなったのはアメリカの影響が大きいようで、紅茶の習慣がアメリカに入った際に、ハイティーの「ハイ(high)」を「formal」の意味と勘違いし、「ハイティー=格式ある紅茶の習慣」として定着したからだと言われています。

せっかくなら本場でアフタヌーンティーを!

アフタヌーンティーの基本メニューは、下からサンドウィッチ、スコーン、ケーキの順でティースタンドに載せられており、下段から食べていくのが正式な形と言われています。ケーキはペストリー、サンドウィッチはキュウリのみを挟んだものがスタンダードとされています。キュウリのサンドウィッチが定番となったのは、当時の上流社会において新鮮なキュウリを栽培できることは富の象徴とされていたからなのだとか。加えて、肉などの栄養価が高い具材をサンドウィッチに使っていた労働者に対し、栄養価の低いキュウリを使うことは働かなくても労働者を従えて生活できることを示すものとされていたため、キュウリのサンドウィッチが一種のステイタスになっていたようです。現在は、サンドウィッチもケーキもバリエーションは自由になっており、食べる順番も特にこだわらなくても良いそうです。

現代では上流階級のみならず一般に広く普及した習慣となっているので、特に礼儀作法にこだわることなく気軽にアフタヌーンティーを楽しむことができますが、もしロンドンを訪れることがあれば、「The Ritz(ザ・リッツ)」「CLARIDGE’S(クラリッジズ)」「The Savoy(ザ・サヴォイ)」といった王室や上流階級の御用達ホテルのティールームで、正式なアフタヌーンティーを経験してみてはいかがでしょうか。