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北アフリカの郷土料理「タジン」

2024/04/04 スパイスと料理

近年、ヘルシーなスパイス料理としてちょっとしたブームになっているのが北アフリカで親しまれている「タジン」。北アフリカは世界で最も料理にスパイスを使うと言っても過言ではない地域です。今回は、スパイスをふんだんに使った風味豊かな料理「タジン」についてお話ししたいと思います。

ユニークな鍋の形には意味がある

タジンとは、アフリカ大陸北西部のマグリブ地域で食されている郷土料理で、主にモロッコ、アルジェリア、チュニジアで親しまれています。現地のレストランのメニューにタジンがないことはまずない、と言われるほどポピュラーな料理で、先住民のベルベル人がルーツと言われています。

「タジン(Tajine)」はアラビア語で「鍋」を意味する言葉。その名の通り鍋を使って作られますが、この鍋の形に特徴があります。「タジンポット」とも呼ばれるこの鍋は、縁のある皿状の本体と、円錐形、またはドーム形の蓋で構成されており、蓋の形状だけではなくその嵩の高さも特徴的です。

実は、この特徴的な形にはちゃんとした理由があります。蓋の上部の狭い空間は温度を低く保つことができるため、鍋を加熱した際に食材から出た水蒸気が蓋の上部で冷却され、凝縮された水蒸気が水滴となって再び食材へと落下する、というシステムになっているのです。その結果、水を使わずとも食材に含まれる水分だけで調理することができるというわけです。砂漠や乾燥した地域を多く要するエリアでは水はとても貴重であり、ある意味必要に迫られて発明された鍋なのかもしれません。

そして、この鍋には無水調理ができるだけではなく沢山のメリットがあるのも事実。例えば、水を使わないので水溶性のビタミンやミネラルの流出を極力減らすことができる、鍋が密封状態になるので食材やスパイスの風味や香りを逃さずに封じ込めることができる、さらには、蓋の嵩の高さが山盛りの野菜を収めてくれるので、結果的に野菜を沢山摂取することができる、などなど嬉しいメリットがいっぱいです。

伝統的なタジンポットは素焼きの土鍋なので、直火で調理をすると少しずつ割れていく場合があるので注意が必要とのこと。できるだけ弱火で調理する、熱いうちは水などで急に冷やさない、といった注意をすれば比較的長持ちするようです。また、火傷をしないように鍋つかみを使う、蓋を取る際に中を覗き込む姿勢をとらない、といった注意も必要です。

スークと呼ばれるマーケットではシンプルなものから色鮮やかに絵付けされたものまで、バラエティ豊かなタジンポットに出会えます。本場のタジンポットを持ち帰りたい気持ちにもなりますが、とにかく嵩張るのと割れやすいというのが難点。どうしても持ち帰りたい方以外は日本のデパートやホームセンターなどで購入するのがおすすめです。丈夫な素材で普段使いしやすいものにアレンジされたものも沢山あります。また、普通の土鍋やダッチオーブン、ル・クルーゼの鍋などで代用するのも一つの方法で、土鍋にアルミホイルで作った円錐形の蓋を被せるという方法もあるそうです。

おいしいタジンを作る秘訣はフレッシュなスパイスにあり

モロッコをはじめ、北アフリカの料理は高級食材を使うというよりは、シンプルな食材にスパイスで素材の良さを最大限に引き出すことで、風味豊かな料理に仕上げるのが特徴です。タジンも肉や魚に残り物の野菜で作られることが多く、肉もラム肉の首・肩・すねといった安価な部分が使われるようですが、スパイスの風味と香りで豊かな料理に仕上がるのです。

野菜はにんじん、たまねぎ、じゃがいもが基本、そこに豆類やオリーブ、レーズンやナッツ類などをプラスします。スパイスは主に、シナモン、サフラン、ジンジャー、クミン、ターメリック、パプリカなどが使われます。特にサフランは食材に色味と風味を与える重要なスパイス。世界で最も高価なスパイスとして知られるサフランですが、モロッコでは手頃な価格で入手できるのだそう。

これらの食材を低温でゆっくり蒸し煮にするのがポイントで、最初に中火で加熱した後は弱火でじっくり調理していきます。また、本場に近いおいしいタジンを作るポイントは高品質でフレッシュなスパイスを使うことで、挽いてから数ヶ月以内のものが望ましいとのこと。もちろん食材もフレッシュなものを用意します。

メインとなる食材は羊肉や鶏肉といった肉が一般的であるものの、牛挽肉のミートボールやソーセージなども使われます。また、大西洋沿いの海沿いではイワシのタジン、サハラではラクダのタジンが食べられているなど、地域によって特色もあります。

家族や友人など仲間同士でタジンを食べるときは、大鍋のタジンを囲んでパンをスプーンがわりに手で直に食べるのが基本スタイル。モロッコのパンは具のないピザを分厚くしたようなパンで、日本で同じものを見つけるのは難しいと思いますが、タジンを本場の雰囲気で味わうならお米よりもパンでいただきたいところです。

チュニジアのタジンは別物!?

ここまでタジンについて語ってきましたが、実はタジンポットを使って作るタジンは主にモロッコやアルジェリアで食されているもので、チュニジアのタジンは全くの別物なのです。チュニジアでタジンポットスタイルのタジンを想像して注文したら驚く方も多いはず。

チュニジアのタジンは、フランスのキッシュに似た卵を使ったパイ風の料理です。チュニジアのタジンにもスパイスは使われ、細かく切った肉とたまねぎに、シナモン、コリアンダー、キャラウェイといったスパイスを混ぜてラグーソースを作ります。つなぎとしてひよこ豆やパン粉、角切りにしたじゃがいもを加え、肉が柔らかくなるまで煮込みます。そこにフレッシュパセリ、ドライミント、サフラン、ドライトマトなどを加え、次に卵とチーズを加えます。最後にこれらを深いパイ皿に流し込み、オーブンで上下がカリカリになるまで火が通り、卵が固まるまで焼きます。肉の代わりにシーフードを使ったり、野菜だけでベジタリアンスタイルにアレンジすることもできます。

なぜ同じ名前の「タジン」がチュニジアでは別物になってしまったのかは謎ですが、いずれのタジンもそれぞれの魅力があります。ぜひ、試してみてください。