2025/02/20 スパイスとドリンク
レモネード(lemonade)とは、レモンの果汁に蜂蜜や砂糖で甘味を加えたシロップを水で割ったドリンクのことで、lemonはレモン、adeは果汁に水と甘味を加えて作る飲み物という意味。熱湯で割ればホットレモネード、炭酸で割ればレモンスカッシュになります。
ただ、レモネードという飲み物は国によって認識が異なり、アメリカやカナダ、イタリアなどでは日本同様炭酸の入っていない砂糖入りのレモン水を指しますが、イギリスでは、レモン風味の炭酸飲料を指し、逆に濃縮した果汁に砂糖を加えたシロップのことをスカッシュと呼ぶのだそう。フランスやアイルランド、オーストラリア、ニュージーランドでもレモネードはレモン風味の炭酸飲料を指し、ドイツやフィンランドに至っては炭酸飲料全般を指す言葉なのだとか。
とはいえ、歴史的に言っても本来のレモネードは炭酸なしの砂糖入りレモン水であったことは事実。イギリスやフランスでも当初のレモネードは炭酸の入っていない砂糖入りのレモン水で、炭酸入りがポピュラーになったのは20世紀に入ってからのようです。
レモンの原産地はインドのヒマラヤ山麓や中国南部とされていますが、レモネードの発祥の地はエジプトという説が有力。11世紀にエジプトで暮らしていたペルシア人が最初に作ったとされており、最初のレモネードはレモンと蜂蜜、水を混ぜたものだったようです。レモンの栽培開始の時期については不明とされていますが、ササン朝ペルシアの時代にシルクロードを通じてレモンが渡ったとされ、最初はペルシア人が栽培を始め、アラブ人が栽培を拡大し、その後9世紀にアラブ人が征服したシチリア島にレモンが持ち込まれたとのこと。
ヨーロッパにレモンが伝来したのはノルマン人がシチリアを征服した11世紀。ただし、高緯度であるヨーロッパのほとんどの地域ではレモン栽培ができなかったため、レモンは富の象徴とされたといいます。また、砂糖の原料となるサトウキビも高価な輸入品だったため、レモネードは市民の手には届かない贅沢な飲み物だったのだそう。
15世紀に入ると、ヨーロッパでもイタリアやスペインといった温暖な地中海エリアの国でレモンの生産が盛んになり、17世紀中頃には、西インド諸島における砂糖農園の拡大を機に砂糖の価格も急落します。原材料が手頃な値段で手に入るようになったことで、17世紀のフランス・パリでは行商たちがレモネードをタンクで運ぶ形で販売を開始し、レモネードが市民の間でもポピュラーな飲み物として一気に広まっていきます。こうして、レモネードは最も古い商業用ソフトドリンクになったと言われています。
アメリカでは19世紀後半、柑橘栽培や行商を行っていたシチリアの移民がニューオリンズにたくさんのレモンを運んだことをきっかけに、禁酒運動の最中のノンアルコール飲料としてレモネードが流行し、また、甘味のあるレモネードは子供たちの間でも人気を集めたとのこと。20世紀に入ると工業化によるレモネードの大量生産が始まり、現在もアメリカではポピュラーな定番商品となっています。
そんなレモネードが日本に伝来したのは、諸説ありますが1853年のペリー来航時のこととされています。日本におけるレモンの栽培は1874年に静岡県で始まったとされ、その後明治時代に入ると広島県を中心に栽培が広まっていきます。1920年代後半には瀬戸内海沿岸でレモン栽培が本格化し、レモンの産地として知られるようになります。1964年のレモンの輸入自由化、1976年と1981年の大寒波で国産レモンは一時致命的な打撃を受けますが、品質等の観点から再び人気を回復していきます。
広島県は現在でも国産レモンの約6割のシェアを誇る日本一のレモン生産県であり、広島県産のレモンは「広島レモン」「瀬戸内レモン」としてブランド化されています。中でも、尾道市、呉市、大崎上島町といった瀬戸内海沿岸の島々でレモン栽培が盛んになったのは地理的要因が大きく関わっているのだとか。レモンは柑橘類の中でも寒さや雨風に弱いため、温暖で雨が少なく風が穏やかな気候が栽培には適しているそうで、世界的に見てもイタリアやスペイン、南カリフォルニアといったレモンの生産地は温暖な地中海性気候の地域となっています。瀬戸内海沿岸エリアは、年の平均気温が15℃台、急傾斜地が多く水捌けが良い、さらに中国・四国山地が風を遮断してくれるなど、レモン栽培にとって恵まれた環境となっています。
日本の国産レモンは様々な点で差別化を図ることで独自の市場価値を持っています。まず特筆すべきは、その新鮮さ。収穫後すぐに市場に出回るので非常に新鮮、香りや風味が豊かで酸味も爽やかなものとなっています。次に、品質の良さ。国産レモンは栽培方法や収穫時期が適切にコントロールされており、最も美味しいとされるタイミングで収穫されます。また、国産レモンの多くは防カビ剤やワックスを使用せずに生産されていると言われ、例えば、瀬戸内レモンは環境にも配慮した生産方法で、皮まで丸ごと食べられるレモン作りがされているそうです。
さて、そんな国産レモンですが、意外にも旬が冬であることをご存知でしょうか。レモンと言えば、爽やかな初夏、あるいは暑い夏というイメージがあり、レモンの需要が増すのもちょうどその時期。最近ではハウス栽培や貯蔵・保存技術の開発がされ、鮮度の高い国産レモンも一年を通して流通していますが、あくまでも旬は冬なのです。日本の露地栽培のレモンの収穫は9月〜3月頃で、品種によって9月〜12月頃、12月〜3月頃と前後しますが、いずれにしても冬の時期に色鮮やかで美味しい国産レモンが市場に並びます。
つまり、レモンを皮ごと使うレモネードには国産レモンがおすすめで、さらに言えば旬の冬にこそ楽しみたいドリンクなのです。レモンはビタミンCをはじめ、クエン酸、ポリフェノール、リモネン、カリウムなど豊富な栄養素を含んでおり、特に皮の部分にはレモンそのものよりも多くのビタミンCを含んでいるとのこと。ここに蜂蜜を加えれば、カルシウム、鉄、マグネシウムといった栄養素を微量ですがプラスすることができるので、レモネードは栄養素を効率的に摂取できるドリンクということができます。
寒い冬にレモネードを飲むならやはりホットがおすすめです。プレーンなレモネードはもちろん、スパイスの入ったレモネードはより体を温めてくれます。スライスした生のジンジャーをはじめ、シナモン、カルダモン、クローブといったスパイスもレモネードと高相性です。
レモネードの作り方はいろいろありますが、最も簡単な方法は煮沸消毒した広口瓶にレモン2個分を薄く輪切りにして入れ、その上から蜂蜜をヒタヒタにかけて密封し、1日置けば完成というもの。お好みで上記のスパイスを加えて作ればスパイシーな大人のレモネードが楽しめます。ぜひ、試してみて下さい。
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爽やかな初夏や暑い夏のイメージのあるレモネードですが、実は寒い冬の季節にこそおすすめしたいドリンクなのです。その理由も含めて、今回はレモネードについてお話ししたいと思います。